ボタニカル3室4室

　何回「解読に成功した」と言われているかわからないヴォイニッチ手稿ですが、まあ別にそこに何がほんとうは書いてあるかとかは、わりとどうでもよくて、解釈のなかで面白いと思ったものがあります。

　人間が植物を捕食しているのではなく、植物が人間を捕食しているという話です。とはいえ、人間を恐怖ではなく、快楽で支配している、というのが面白いです。

　ただのディストピア的な陰謀論のような怖い話なら、いくらでもすでにあるんですが、快楽原則の支配という意味のもとで、とたんに興味深くなりました。

　占星術では金星は「快楽」と「植物」を表しますし、これはシュタイナー的に言えばむしろルシファー的存在かもしれません。まあある意味では、ミノタウロスの皿とか思い浮かびますが。

　もちろんモンスター映画とかビオランテみたいな植物の怪獣が人間を捕食しているわけではありません。しかし生命の循環システムから見ると、動物は生まれてやがて死に土になり、というサイクルを繰り返しています。すなわち、自然から生まれ、自然に帰っています。この自然に帰る、というのが捕食なのかもしれません。

　快楽はしかし、結びつくものに肯定的なイメージを与えます。死や病に否定的なイメージを持つのは、それらを司る痛みというものが否定的なものだからです。だから、死や病がもしも快楽だったならば、それは肯定的なイメージすら持ってしまうかもしれません。その意味で、植物は肯定的な快楽でもって人を利用するのならば、それは否定的なものとは限りません。

　植物によって人が癒されたり、植物を大事にしたいという気持ちがあったり、いわば森林浴で癒されるのならば、それは植物が人間に仕組んだ快楽原則そのものです。

　実際に、植物は緑色をしている必要なんて全くないのに(むしろ、光合成において非効率的)、緑色をしている理由は、人間が緑色を美しいと感じやすいから、という研究があるくらいです。植物の世界の「支配」は人間の世界の支配と違って、何か愛のようなものを利用したものになります。なので、同じ支配でも全然イメージが違いますね。

　もちろん、植物の力を必要としない人なんていくらでもいると思います。思えば、まだ思春期みたいなものがきていない子供は、エロス的な「愛」をまだ知りません。支配者たる植物の影響力が弱いと言えるかもしれません。そして、そのような子供達の世界は、何かとても暴力的です。それはまたは、人間的な、と言えるのかもしれません。

　植物の性格を考えると、いつも思うのは、3室、4室あたりのホロスコープの「地底」のことです。3室、4室は、その真逆の9室、10室が「外」であるのに比べ、「内」の極にあります。

　3, 4室が優れているような人は、もちろん他の星や星座にもよりますが、「大地」と相性が良く、植物とも相性がいいかもしれません。地属性星座や金星・土星あたりに良い星が多ければより一層そうかもしれません。

　私は自分のホロスコープ上で、3室に特徴的な星が多いので、3室のテーマにはいつも興味を持っていました。ただ、3室は意味的にはあまりインパクトがない場所です。兄弟を意味しますが、兄弟について言っても「だから何？」という感じでしょう。また、文章表現も意味しますが、5室もその意味では同じようなものです。

　そのような時、3室というものの強いオリジナリティ、アイデンティティとは何か？と思った時、「9室の対極」だということは、ひとつの大きなアイデンティティです。9,10室のあるMC付近では、何か天空の勇者みたいな人たちが、常に争っています。3,4室のあるIC付近は、それを眺める場所なのです。もちろん、3,4室の住人が、9,10室まででかけていき、彼らの「社会・立派・大人・鍛錬・洗練・優秀さ」の世界に入り込んでしまうと、その天空の勇者たちに攻撃されたり徒党を組んで争うことに入り込んだりしてしまいます。

　でも、彼らはその争いがホームポイントだからこそそうしているだけなのです。3,4室の住人は、天空の争いは少しもホームポイントではなく、もっと何か生活を満たすようなことのほうが人生に意味があることになるでしょう。家を買って、でも仕事運があっていつも外で働いて、その成果や栄光もあり、仕事のやりがいはあっても、家に帰ってくる機会なんてほとんどない。それよりも、家を楽しむ余裕に人生の価値を見出すかもしれません。

　3,4室がホームポイントなら、社会や大人、知恵比べや栄光比べみたいなところに、皆と同じく設置されたとき、言い知れぬ疲れを感じて、でもその競争において力比べに敗北したり(力比べに興味がないのだから、当たり前です)、蚊帳の外になることで、本当の自分のホームポイントを思い出すような気がします。

　そういったものこそ、植物が人間に行動原則として与える快楽原則の量みたいなものが、個人差があるということに他らないようにすら思えます。