土星をこえて


 答えのない問いを、問わないでいることもできる。実際、多くの生命は、そうやっていきていくのかもしれないし、目の前の仕事をやる以外の余裕はないかもしれない。

「自分の命を、維持しなければならない」と、人はいつも、それを人質にとられていきているのだけれど、自分の場合は、「自分の命は、そこまで大切にしなくても良い、どうせ到達点は、皆一緒、全ては空である」と思いつつも、いざ生命の危機に瀕した時は、何が何でも生きたいと思って苦しむかもしれない、その程度。

 理論で、「人は生まれては死んでいくもので、それはどんな人でも平等」と思っていても、体の細胞や本能や無意識みたいな領域は理解していなくて、また理解できないみたいで、何がなんでも生きようとしてしまうものだ。

 別に大切な人がいるわけでもない。実際もしも例えば誰かが死んでとてつもなく悲しいとき、苦しいとき、その感情を感じないですめば自分の感情は安定してハッピーになれる。そこで、自分で自分が今感じている感情を感じないようにする場合、自分が死んでいる必要がある。と考えても、体は理解しない。

 答えのない問いは、そのように、生きるようにプログラムを仕向けられている生命という性質上では優先度が低い。「私たちはなぜ生きているのか?」「私たちの生きる目的とは何か?」「私は死後どうなるのか?」は答えのない問いは、実際それがわかれば、生とか死にも目的意識を持つことができて、生きていくという動機や活力にもなれるのだが、答えがない。答えがないというか、仮にこうである、と答えを出し、それを反対意見を一切考慮せずに信じきることは、難しいことではない。だが、命が生きている限り、懐疑論は生き続けるのだ。

 私たちが苦しむのは、何かを比較し、優劣をつけられる時であって、優劣な様々な感情を呼び起こし、呼び起こされた感情が、人間に苦しみや快楽を与える。この世に苦しみや快楽があるというよりも、私たちが解釈によって苦しみや快楽を自分の中に形成しているのだが、私たちはその「解釈」が比較的不自由なのである。私の思い通りにものごとを「解釈」できれば、私は永遠に快楽を得続けることができるのだが。

 でも人というのは、苦労したり苦しんだら、その分快楽や報酬が欲しい、と思ってしまう。実際この動画の猿でも、それが備わっているということなので、人間社会もまた、当然この法則に支配されているのだ。この猿の場合は、目の前の食べ物でそれを感じているけれど、人間社会で言えば、社会への不満、受験勉強、昇進、就職、何もかも、これに支配されていると考えられる。

 とりわけ、個人的には学問にこれを強く感じる。学問というのは、より多くを知るという努力や苦労を持っていないと、1人前とみなされないし、確かに、たくさんやらないと、たどり着けない境地ってのはあるのかもしれない。もっと言えば、「専門性」はまさにこれ。「たくさん努力した人は、より良いに決まっている」とは、まさに「不公平でない」ことへの憧れとか宗教的な態度。

 この世に偏在する「説得力のある話」とは心理学的テクニックにすぎないし、「たくさんの事例が報告されているのなら、それは実存的である」というのは、群れをなす動物の習性のようだ。

 「本をたくさん読んだ人が見えるもの」の有名な画像がある。



 確かに、学びは憧れを払拭してくれる。憧れが払拭されたとき、情報の流れというものが理解できて、目の前の都合の良い絵が消えて、絶望が残る。絶望のさらに上をいくために、人は「不公平」への信仰をやめなければならない。信仰をやめるには、人には「答えのない問い」と向き合う必要性すらでてくる。

 ある意味では、絶望のさらに上の段階へいくとき、人はもう一度一番最初の段階の「目の前の絵に騙されている段階」に立ち戻る必要があるようで、その時点ではおそらく絶望的風景を見ている人にとっては、その人よりもさらに知識をつけた人が全く知識のない初心者の愚か者に見えるかもしれない。


 占星術では、土星より先の星は、もう「社会・個人」そういうものがなくなってしまう。つまり、この世の「答えのない問い」の領域に入っていく。絶望的風景にある人は、「答えのない問い」は不利益で、絶望的風景の世界で残された針の穴を通すような物理法則を全力でこなしていかなければならないのに、そんなことをしているヒマはないと言うかもしれない。そこは実際、人の持つ「縁」なので、仕方がない。

 天王星は現状維持を破壊し、海王星は物理法則を破壊し、冥王星は物事の大黒柱を取り去ってしまうような存在だ。破壊はしかし、絶望的風景のなかでの現状維持よりはまた良いのかもしれない。毎日同じ絶望の繰り返しよりも、空中浮遊状態でも少しでも違いがあればまだいいのかもしれない。

 

ᚠᛚᚪᚵᛋ ᚠᛚᚪᛪ ᚠᛟᛞᛞᛖᚱ ᚠᚱᛁᚵ

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